遭遇のち酒宴の果てに

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何故に俺が料理をしているのか。いや、本来はおかしいことじゃない。ここは俺の住む家で。当然台所も俺が使う為の場所であり、食材も俺自身が稼いだ金で買ってきた物である。自分で作って自分で食べるために。だからおかしくない。うん。本当ならな? 思い出してほしい。背後で熱い眼差しをこちらに、というかフライパンと鍋…特にフライパンの中身へと向けている存在に。彼女が先程御馳走と口走ったことを。 御馳走。それはさっきのように高級なものだったり普段口にできないような料理を指すわけだが。それ以外にも含まれた意味がある。御馳走する。そう。お客さんの為に腕を振るうだとか相手をもてなしたりする為の心尽くしの料理を振る舞うといった。 彼女がお客さんなら納得だ。招いて手料理でもてなす。この図式が成立するのだから。だがしかし。現実は違う。違うのだよ諸君!むしろ逆。逆なのだ。 簡単に説明するとだ。俺はちょっとしたことで彼女を助けたわけだ。そのお礼にと彼女は手料理を振る舞うことに。で、女の子の手料理なんていつぶり…というか覚えがない俺はなんだかんだワクワク胸を弾ませ行儀よくお座りして待っていたわけだ。 そして出てきた胡瓜の大軍。圧巻であったよ。1面緑1色なんだぜ。信じられるか?見渡す限りあれ全部胡瓜なんだぜ。 好きだよ?胡瓜。うまいよ?胡瓜。でもな?流石に胡瓜ばかりは食欲なくすわ!緑ばかりで目も痛い! さてここで問題です。なぜこんな悲劇が起きたのか。 彼女は言った。使用できる食材が胡瓜以外調味料しかなかったと。ならば今俺が焼いてる鯖は、豚汁の豚は大根は人参はなんなのか。彼女が持っていた唯一の食材が胡瓜だった?違う。そもそも胡瓜も俺ん家の食材である。勿論調味料もな。 つまりだ。彼女の言を正確に表すならば―― "彼女が料理として調理でき使用できる食材が胡瓜以外なかった" ――となる。テストには出ません。範囲外です。 そんな馬鹿な!何処のお嬢様だよ!胡瓜料理しか出来ないって!いや、胡瓜を調理出来るお嬢様ってなんだ!? ため息のバーゲンセールが生じた理由がこれである。いくら男の子憧れである女の子の手料理だろうとこれはない。胡瓜以外を所望したい。所望する。だが彼女は胡瓜以外の料理ができない。 ならどうするか。 俺がやるしかないでしょう。これが答えだ!
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