遭遇のち酒宴の果てに

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あったかふっくらつやつやご飯を手に持って胡瓜の味噌和え、焼鯖、胡瓜の酢の物、豚汁、胡瓜の漬物といった具合に口へと運ぶ。ちゃんといただきますしてからだ。うん。美味い。少し胡瓜が多いけど。ニャーと声がする。 「ああお魚さん!美味しいよー!じゅわっとじゅわっとぉ!お味噌汁具沢山!ゴロゴロ一杯!お米が甘ーい!胡瓜が美味しい!」 対面ではパクパクさん。胡瓜胡瓜胡瓜お魚さん。胡瓜胡瓜胡瓜お味噌汁。胡瓜胡瓜胡瓜お米。胡瓜をメインに御機嫌である。最早主食が胡瓜である。喜ばれて嬉しいのだが何故か微妙な心持ち。ナゼダロナー。 だがそれも仕方がないのかもしれない。だって彼女は。 「河童だからにゃ」 その通り。彼女は河童のお嬢さん。なのだもの。 見た目は普通の女の子。歳は10代後半くらいだろうか。若い。ピチピチである。河童だけに潤ってるのかもしれない。今は、と注釈が付くのだが。 「ミイラになりかけてたもんにゃ」 「そんなしわくちゃになってませんよ!?」 すかさず反論をかます河童のお嬢さん。確かにそこまではなかった。なかったがカサカサだった。干物になりかけてたな。焦ったわ。それと口にモノをいれたまましゃべるんじゃありません。女の子なんだから。 「うう…ミイラとか干物とか…ひどいです」 今度はきちんと飲み込んでから不満を口にする河童のお嬢さん。素直である。ほんのり耳が赤いから恥ずかしかったのか。少し可愛いな。頭を撫でていいですか。 そんな思いを胸に秘め彼女の頭に目をやればそこにはまあるいお皿が…ない。うん。今の彼女を見て河童だとか言ったら頭おかしいんですか。はい病院行きましょうねからの強制入院まったなしだぬ。 そもそも河童がいるとか信じないのが大半だろうけど。だけど実際目の前にいるんだよなぁ。今の状態なら俺も信じられないだろう。いたとしてもおかしくないと思っていてもそれくらい現在の彼女は普通の人間の女の子だもの。皿もなければ水掻きも甲羅もないんだから。 だけど彼女は間違いなく河童である。干からびかけてた皿に慌てて水をぶっかけたのも猫に軽くかじられてたのを助けたのも俺なのだから。 なにより河童がいること自体何の不思議でもない。 なぜなら―― 「鯖ほぐしねこまんまうまうまなのにゃ」 ――既に身近に不思議生物いらっしゃいますから。猫又っていうね。
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