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ユカさんに、夏休みは東京に住む従兄妹の家に泊まって、東京観光でもしないかと誘われた話をした時、母は開口一番「馬鹿じゃないの」と吐き捨てた。
悔しくて、必要なお金は貯めていたバイト代で賄うことや、ユカさんの従兄妹の家も賛成してくれていること、何よりあの、信頼している『大人』であるユカさんの誘いなのだから、何も余計な心配はいらないんだと必死に説明した。
しかし母は「騙されている」「まだそんなヤツとつるんでいるのか」「お前は何もわかっちゃいない」と怒鳴りつけ、しまいには「クズ」「大バカ野郎」「いいから諦めろ」と罵り、私の頬を思い切り三度ビンタした。
虫の居所が悪かったようだった。
私は泣きながら部屋に籠もるしかなかったし、母はその様子を見てざまあみろと言いたげに「フンッ」と鼻で笑った。
父と母は私が中学三年生の頃に離婚したため我が家は母子家庭だった。
母は別れてから思う存分仕事に打ち込み、早々に新しい男を作り、随分楽しそうに過ごしていた。
しかしどうも男がそばにいないと落ち着かないようで、会えない日が続くとこうやって爆発する。
二つ下の妹は頭から布団を被って泣く私を「もっとうまくやりなよ」となじった。
今度は比較的機嫌のいい日を見極めて、再度東京行きの話を母にしたのだが、母は最後まで首を縦に振らなかった。
私も何度殴られても罵られても意見を曲げなかった。
最後は「もう出ていけ」と追い出される形で家を出たのであった。
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