親の愛情、無条件には与えらず

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「おばあちゃん、瞬間移動身に付けたの?」  そうじゃねぇだろ、と優馬の呆れた言葉が投げられる。  信じ難い状況に何度も瞬きを繰り返す私に、おばあちゃんはいつもと代わりない笑みを溢し耳を疑いたくなる一言を告げた。 「餅を喉に詰まらせたみたいでね」 「へ?」 「一応家に帰って救急車を呼んでくれんか?もう流石に間に合わんと思…」  おばあちゃんが言葉を言い終える前に私は踵を翻していた。それはもう今まで走ったことのないような全速力でコンクリートを蹴り上げて。  どうしよう。どうすればいい。  おばあちゃんは昔から嘘を言わない人だ。だからこそ先刻の発言に震えが止まらない。死人に口なしとは言うけれど、嘘だと言ってほしい。  バイトに入らず家に帰っていれば防げたかもしれない。  私が優先順位を間違わなければ防げたかもしれない。  いつも通りおばあちゃんとの決まり事を行っていれば防げたかもしれない。  解決策を見出ださない" たられば "ばかりを繰り返し、後悔という二文字は私をいとも簡単に飲み込んでいく。  取り戻せない時間に、私は大切な人を置いてきてしまった。
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