青魂

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「お前が欲しい居場所を奪い去るモノだ」  青年は僕の手に、青い結晶を握らせた。透き通った、深みのある青で、ビー玉くらいの大きさをしている。それでも行くか、と問う青年に、微笑んで頷く。もう答えは決まっていたはずだ。僕は、僕の意思と強さを信じたい。   僕は、若草の草原の、噴水を目指して走った。たくさん泣いたのでひどく疲れたが、急がなくてはならない。水しぶきが上がり、目的地を発見できた。  白磁の鉢の中を覗き込む。そこには胎児が揺蕩っていた。正しくは、胎児のなれはてだ。青白く、ゼリー状の膜が全身を覆い、へその緒はどこかと繋がれたままだった。  僕は、潰さないように握っていた青い結晶を胎児の口に含ませる。胎児はみるみる色を取り戻し、生命力に満ちていく。白磁の鉢に溜まった水は、グラデーションが反転し、コバルトブルーが深くなった。  胎児は、行くべき場所へ向かう。僕の居場所を奪いに。けれど、とても清々しい気分だ。若草に倒れ込むと、僕は深い眠りに就いた。      目を開けると、薄暗闇に、背の低い草や小石がごろごろと転がっていた。そこが川原だと気づくのにしばらく時間がかかったが、鈍い頭痛が、全てを思い出させてくれた。僕は、かけがえのない命の代償に、僕の欲した居場所を失った。身体が、重い。またすぐに眠りに落ちた。  次に目を開けると、鍋の中に見た、あの人の顔が近くにあった。今度は泣きながら笑っている。その腕に、可愛らしい赤ちゃんをぎこちなく抱いていた。「よかった。幸せに」心からそう願うも、こちらの声は、届かない。僕はまだ、夢の中に居るようだ。    こんな話がある。  青い月の出る夜に、川面に映った自分にキスをすると、大切な人の願いをひとつ、叶える事が出来る。  ただし、その対価として、願いが叶ったその後に、大切な人の記憶から消えてなくなる、というものだ。
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