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雫が水面を打つ音で目が覚めた。
頭には鈍い靄がかかっているが、身体はどこにも負担がない。足と腕と首に、少しひやりとしたみずみずしい感触が当たっている。視界が黄緑色なのは、なるほど、若草の上に転がっているからか、と納得した。
腕に力を入れ、上体を起こす。音の正体は、すぐ側にある小型の噴水だった。公園の水飲み場で見かける、I型の噴水口から、ある程度規則性を持って水が流れている。その水を受けるのは、白磁の鉢だ。人の赤子がひとり、入れる程の大きさはある。雫は、水が張られた陶器にカロン、カロンと奥深い音を響かせている。
思い出したかのようにのどが渇く。僕は膝立ちのまま噴水に近づき、鉢を覗き込んだ。底は透明で、段々青みが強くなり、水面はコバルトブルーで覆われている。見慣れないグラデーションに、好奇心がくすぐられる。のどを潤すためにも、中間の青を手で掬ってみる。
「やめておきな」
噴水の裏側から声がした。声の主を見つけるため目を細めると、小さな子どもが見えた。小さい、と言っても、缶コーヒーくらいの大きさだ。見つめる時間に比例して、細部まで表わされていく。白い髪に、薄い唇。元は白かったであろうつなぎの作業着は、所々青く汚れ、空もようになっている。
「ソレは最後の工程だ」
「最期……」
「そうだ。ついて来い」
僕はやっと立ち上がり、自分の身体を足で支えた。とても軽くて心地がいい。見渡すと、若草の緑がどこまでも続いていた。天は白み、随分上の方が蒼かった。「さっきと反対だ」と思った。上機嫌で、小さな子どもについて行った。
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