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ふと顔を上げると、橋を渡り切ったその先の小道に、白い軽自動車が停まっているのが見えた。勢いよくドアが開き、ボールが転がり落ちるようにして羽(は)純(すみ)が出てきた。律のすがたを見つけて大きく手を振り、駆け寄ってくる。
「買い出し行ってた。あにきの車で」
にかっと笑う。ジーンズにロゴT、さらに、鮮やかなみどり色した、袖に白いラインの入ったジャージを羽織っている。いまだかつて染めたことのないつややかなショートボブに化粧っけのない肌。ぱっと見、少年、だ。
「ごめんな、全部まかせちゃって」
「いいのいいの。それよりこれ。ケーキ」
羽純は得意げに、白い箱を高く掲げてみせた。
「博(ひろ)己(き)は?」
「部活のミーティング終わって、帰ってるとこだって。いったん着替えてくるってさ」
橋を渡り、連れだって歩きだす。
「十二時半ぐらいに集合って、笑里(えみり)には知らせた」
「そもそも今何時だっけ?」
「んー? 十二時ちょっと過ぎ? ぐらい? まだ余裕あるね。律は、いいの?」
いったん帰って着替えなくていいのか、という意味だろうか。午前中、学校へ行っていた律はまだ制服のままだ。家にもどるのはどうにも億劫で、首を横にふった。
羽純はばかでかい帆布のトートを肩にかけてかろやかに歩く。バッグが大きいから、小柄な羽純はまるで荷物にかつがれているみたいだ。持つよと言ったら、
「律はいいよ。あたし重い物運ぶのはへいきだし」
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