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なんて言って笑う。少し、むっとした。
男子のなかでは非力な部類にはいる律だって、羽純より二十センチも背が高いし、力だって強いはず。なのに自分だけ手ぶらだなんてプライドが傷つく。
「貸しなよ」
手をのばすけど、ひょいっとかわされて、律はむきになった。
「貸してって」
「律はいいんだってば」
「持つったら、持つ」
「律にはむり」
ずいぶん舐められたものだと睨みつけようとしたところで。羽純の笑顔が、少し、陰っているのに気づいた。それでなんとなく、男子として重い荷物を運んでやろうという気概が失せてしまった。
川沿いの小道を歩き、田んぼを抜けて、県道に出る。ふたりの通っていた小学校へと続く、ゆるやかな坂をのぼっていく。道の際のいたるところに菜の花の黄色がこぼれていて、まぶしい。田舎町ゆえ交通量はすくなく、時おり軽トラやトラクターとすれ違うぐらいだ。
「ていうかこれ、商店街のつかさ菓子舗のやつだけど、笑里の口にあうかなあ?」
羽純がケーキの箱を掲げて眉を寄せた。さっき一瞬だけ走った影はもうあとかたもない。律は少し安堵した。
「いーんじゃん? ケーキなんてどこのも一緒だろ」
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