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「ん。そーでもないよ。あたしはね、ケーキっていえば、でかくてイチゴがどんって載ってて食べごたえがあるのが好きなんだけど、」
「だけど?」
「クラスの女子はさあ、長ったらしいカタカナの名前がついてて、高いくせしてやたらちっこいやつが好きっつーんだよ? こーんなにちっこいの、こーんな」
口をとがらせながら、羽純は左手を丸めてちいさな輪っかをつくってみせた。なるほどちっこい。律は笑った。
「笑里は喜ぶよ。羽純が選んだものならなんでも、嬉しいと思う」
そっかな、と羽純はつぶやく。すこしだけ頬を染めて。
やがて、坂道のてっぺんにある、小さな木造校舎が視界にあらわれた。校舎のぐるりは淡いピンク色のふわふわで覆い尽くされている。桜だ。
「おー、満開満開」
左手をひさしのようにおでこにくっつけて、羽純があかるい声を出す。ダッシュしようよ、ということばが耳に届いたときには、すでに彼女は駆けだしたあとだった。律はあわてて追いかける。
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