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一段とばしで石段を渡り切った羽純は、てっぺんから律を見下ろし、おそーい、と叫んだ。青空と、桜のうすもも色と、羽純のジャージの緑のコントラスト。まぶしくて律は目を細める。そして、一気に駆けあがった。
ぽつぽつと草の生え始めたグラウンドを取り囲むように植えられたソメイヨシノの、いちばん大きい一本の下にレジャーシートを広げて座る。羽純は帆布トートから中身を取り出し、
「紙皿オッケー。紙コップオッケー。敷物、オッケー。お菓子もばっちり」
と、ぶつぶつつぶやきながら買い忘れがないか点検している。
「からあげ、サラダ巻き、フライドポテト……」
つぎつぎに惣菜や菓子を並べていく。真ん中に鎮座するのは「でかくて食べごたえのある」つかさ菓子舗のケーキ。もちろんホールだ。
伸びかけのショートボブの、サイドの髪がはらりとこぼれ落ちてきて、羽純は鬱陶しそうにすくって耳にかけた。
「ね。お惣菜、これだけで足りるかなあ?」
一瞬魅入ってしまった律はすぐに答えることができず、あわてて「飲み物は」と口を挟む。と、羽純はあっと小さな声をあげて立ち上がった。スマートフォンをジャージのポッケからとり出し、電話をかけはじめる。博己に買い出しを頼んでいるようだ。
博己たちが来るまで手持ぶさたになってしまい、しばらくふたりはぼうっと桜を眺めた。
ややあって、羽純が、
「ね、今日は何か聞こえた?」
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