ブルー・キラー

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 なんでこんな能力が僕に宿っているのかは全く分からない。  小さいころから漢字は好きだった。  幼稚園の頃だったか、自分の名前を漢字で書いた時、周りの友達と先生に褒められたことがきっかけで、僕は沢山漢字を勉強した。そのうち、成り立ちや普遍性なんかを知るようになって、ますますその奥深さに魅了された。  確かに漢字はとても身近にあった。  僕は人よりも相手の考えていることを読み取る観察眼に長けていて、それが身近にあった漢字が引き金となって、僕の脳内で具現化されているのだろう、と。勝手にそう思うことにしている。  この能力があって損したと思ったことは特にない。むしろ、教師という職にぴったりだと思っているし、フルに活用させてもらっている。  チャイムと同時に一年A組の教室に入ると、ばたばたと生徒たちが自分の席に戻り始めた。ずいぶんとざわついていたようだ。やはり何かあったのだろうか……? 「起立、礼、着席」 「おはよう。国語を担当する奏哲郎です。予め担任の先生から連絡が行ってると思うけど、今日は宿題として出していた、好きな漢字、もしくは熟語と、その理由を教えてもらおうと思う。一人ずつ、全員発表してもらうからな」  これが、僕が国語の教師になってから毎年行っている恒例の授業だった。  入学したばかりの高校一年の最初の授業で、好きな漢字か熟語を最低一つ発表し、その理由を説明させる。 「じゃぁまずは……荒本」 「はい! 僕の好きな漢字は(画数が多くてかっこいいから)です! 理由は画数が多くてかっこいいからです!」  教室中に笑いが起こった。なるほど、荒本という生徒は裏表の少ない性格のようだ。  恥ずかしがらず、堂々と発表した態度からは実直さや素直さが見て取れる。
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