真昼にて

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真昼にて

 手鏡のなかの水面が、大きく歪んだ。  私は茂みの陰から立ち上がる。  水音は、わからなかった。  沼に近づく。もしかして、あの子たちの誰かが落ちたのか。茂みに隠れつつ手鏡でほとりを盗み見ていたのだが、誰も来なかったはずだ。足音もなかった。  沼の上澄みが正午の光を反射している。今日はからっとした晴天で、湿度も低い。  かくれんぼで遊ぶにも最適の日だ。  ──もーいいかい──  そう遠くない場所から、声が響く。  見た限り、誰も沼には落ちていない。澱が揺らいでいる様子もない。気のせいなのか。 「クナちゃんみぃつけた」  あの子のたちの一人の、鬼役の子がやってきて私を指した。  手鏡を帯のなかに仕舞って腕時計を見ると、もう昼食の時間だ。かくれんぼの終わりを告げ、あの子たちを集める。  いち、にい、さん、しい──一人足りない。 「最初から四人だよ」  子供たちの一人がそう言った。  納得いかない私は、しかし五人目の存在を証明できないまま、子供たちに促され家へ戻った。  帰ってすぐ、母を手伝って昼食を作る。  揃って食べる子供たちは、不気味なぐらい大人しい。そもそもみな顔貌が同じなので、そこからして気味が悪い。  私は母に遠回しに、預かってる子供は何人か訊いてみた。  答えは目の前の通りの人数だ。  私はおばあさまのもとへ行ってみることにした。彼女のもとには行かないようあの子たちには言い聞かせていたのだが、もしかしたらと思って。
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