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「洗ってきたよ」
どこか落ち込んでいる様子で、先輩は生徒会室に戻ってきた。
「別に怒ってないですから」
そう言うと、先輩は顔を上げて、瞳を輝かせる。
俺にきつく当たられたのが少しショックだったのだろう。
こういったところは、子供っぽくて年相応に見える。
とりあえず、先輩を机の上に座らせる。
「次はこのガーゼで傷口を抑えていてください」
「はーい。……って、持ち歩いてるの?」
「まぁ、一応」
「偉いね!私、持ち歩いてても、絆創膏くらいだもん」
別にどうってことのないことで、先輩は俺を褒める。あまり人から褒められたことのない俺は何だか少しくすぐったくて、口元が緩みそうになるのを手で抑える。
「血が止まったら、絆創膏つけてくださいね。俺、片づけの続きしてます。あと、帰りの準備も」
「でもっ」
「いいから、大人しくしててください」
「……はーい」
俺が片付けや、帰りの準備をしている間、先輩は本当に大人しく待っていた。
ただ、その間、俺に向けられる視線はなぜか少し痛かった。
「終わりましたよ」
「ありがとう」
机から飛び降りて、満面の笑みで感謝の言葉を口にする先輩は、何か企んでいるようにも見える。
だから、俺は次の言葉を待った。
「ねぇ、五月に行った、あの海に行こうよ」
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