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「わぁー、少し寒いね」
「当たり前ですよ、時季を考えてください。もう九月中旬なんですよ」
「君だって、ついてきたじゃない」
「まぁ、そうですけど」
あの後、先輩の提案に乗った俺は、制服のまま帰り道の途中にある海に来ている。
辺りはもうすでに闇に包まれていて、夜空に浮かぶ星の輝きでお互いの姿が見えるかどうかだ。スニーカーでは、砂浜の上は少し歩きづらい。
「……あの時の海も綺麗だったけど、今日は星がすごく綺麗だね」
そうやって夜空を見上げる先輩の瞳には星が映っていて、綺麗に輝いている。
「ですね」
星を見ていると、ふと、五月にこの海に来た日のことを思い出した。
朝食を食べ終わって、テレビを見てくつろいでいると、家のチャイムが鳴った。お客さんでも来たのだろうかと、テレビドアホンを覗くと、満面の笑みでそこに映っている先輩の姿があった。
俺は急いで外に飛び出すと、先輩は言った。
「海に行こう!!」
今日もあの日も、いつだって、突然やってきては、俺をいろんな場所に連れていく。
夕日が綺麗に見える丘、月が綺麗に見えるという噂のある場所、わざわざ雨の日にカフェに連れていかれることもあった。
もう慣れたことだが、どうしていつも俺なのか疑問に思うことはある。
先輩の周りには沢山の友達がいて、いつも笑顔に包まれている。
俺はそんな先輩と真逆だ。友達はいないし、何も話さない俺はクラスから浮いている。
それに俺はあまり笑わない。
生徒会に所属できているのだって、先輩が頑張ってくれたからだと俺は思っている。
だからどうして、先輩は友達ではなく、あまり笑わない俺を選ぶのだろうかと疑問に思う。
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