?

1/21
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ

?

羽田空港は、ゴールデンウィークということもあり、休暇に向かう人々で混雑していた。平日であれば、近代的な建造物にフォーマルな装いのビジネスマンが行き交う空港であるが、この日は、バカンス用のラフな格好の人々で溢れ、楽しそうにはしゃぐ子供たちや、普段乗り慣れない航空便の搭乗手続きに戸惑う老夫婦、久しぶりの2人の時間に浮かれるカップルたちで溢れていた。  そんな雰囲気だったから、澪の格好は目立っていた。ダークグレーのピンストライプのスーツに身を包みんでいた。スーツは、質の良い光沢のある生地を使っており、素人目に見てもそれが高級品であることが分かった。 「スマートフォン、携帯電話、ノートパソコンは、鞄から取り出してトレイにのせてください」 空港職員は、事務的な声でそうアナウンスした。 澪は、手慣れてた手つきで、鞄からノートパソコンとスマートフォンを取り出し、トレイにのせた。 澪は、保安検査場を通り過ぎると、ラウンジに入った。 プレミアムクラス用の客のみ利用することができる休憩所だ。企業の役員や富裕層向けに設えられており、高級感のあるソファーやデスクなどが利用できるほか、コーヒやお酒を飲むことができる。澪は、いつも飛行機の搭乗開始時刻まで、ラウンジで仕事をするのが好きだった。質の良い調度品というのもあるが、搭乗開始時刻までの限られた時間の中で、一仕事片付けようと思うと、自然と集中できるのだった。また、電話をかける際は専用のボックスがあり、他のビジネスマンの声で、集中を遮られることもない。だから、いつも1時間ほど早く空港に到着し、このラウンジで仕事をしていた。 澪は人目をひく美人だった上に、随分と若いのに航空会社のラウンジを利用しているものだから、目立った。だから、きまって企業の重役やビジネスエリートたちの視線を浴びるのだった。澪はそんな状況を、内心楽しんでいるところがあった。時々、彼らから話しかけられることもあった。彼らはプライドが高いから下心丸出しで接して来ることはない。いつも紳士的に接してくる。だが澪は、本当は女としての関心を持たれていることを見抜いていたから、自分が気に入った相手には会話に応じ、そうでない場合は軽くあしらった。そんな、駆け引きを楽しんでいた。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!