水の精霊の流す青

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【涙に襲われる】という体験をした人は、この世界にどれほどいるだろうか。  涙に襲われる。ただそれだけ聞くと、涙を流す者が何故涙を流しているのかがわからない。故に想像力を働かせ、『何故涙を流すのか』その理由を考えるはずだ。  では、どういった状況に陥った場合涙を流すのか。  例をあげるとすれば、恋人に別れを告げられたとか。  家族が不慮の事故や病気で亡くなったとか。  一番わかりやすいのが怪我をした時等だろうか。  転んで膝を擦り剥いて子供が泣くのは、突然の出来事に驚いてというのと同時に、痛みが生じるからだ。子供でなくとも痛みに涙を流すのは人間なら当たり前の事だろう。  まぁ理由なんてものはいくらでもあるし、理由そのものを生み出す事だって可能だ。  というより、人間は特段理由が無ければ涙を流せないという訳でもない。  もっと言えば、涙を流させるようなイベントが起きずとも涙を流す事が可能なのだ。  要するに嘘の涙。もしこの話を聞いている人がいるとしたら、その中に嘘の涙に騙された事がある人は決して少なくは無いはずだ。 ……しかし。それはあくまでも『人間』に限った話で、『人外』である存在がそうであるかについては、人間である僕の方から「違う」と否定出来るものでは無かった。  何故突然人外の話が出てくるのかって? 簡単な話だ、今まさに目の前に居るからだ。 「エリア、頼むから話を聞いてくれないか。僕は何も君を泣かせるためにここに来た訳じゃないんだ。君を救いに来た。だからーー」 《うるさい! お願いだから近づかないで! 早くソイツをここから消し去って!》  彼女の拒絶の言葉に、僕の心は激しく痛み出す。気持ちは分かるが、今はそんな事を言っている場合じゃないんだ。  そう返そうと口を開くが、彼女が放ってくる青い涙によって閉ざされ、喋るタイミングを失ってしまう。  コミュニケーションが取れていたはずの相手なのに、それが不可能になるのはかなりのもどかしさを感じる。  彼女から放たれた青い涙は、いくつもの小さな礫となりこちらへと軌道を向けている。当たればひとたまりもないため避けるしかないのだ。 『水の精霊』なる少女、エリアが暴れている泉から数メートルほど距離を取り、近くにあった木の影へと身を隠した。
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