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緑豊かな森に囲まれ、青く澄んだ泉の中心に彼女は健在している。
そんな彼女は、僕の声を遮るように声を大きく張り上げ、青い涙の礫を散りばめ周囲を荒らしている。
彼女自身とても美しく、まだ年端もいかない程にしかない大きさでふわふわと浮かぶ姿はとても可愛らしいのだが。
いくら見た目が美少女であれど、あんな攻撃をこちらに向けてくるのは恐怖以外の何ものも感じさせない。
両の手で顔全体を覆い、必死に涙を止めようとしているふうに見えるが、彼女から溢れ出す深い感情から読み取れるのは、明確な『怒りの感情』。それと同時に流れ込んでくる強い恐怖心。……そして、『殺意』。
木々は倒され、飛び散った土や木屑によって透き通っていた泉の水面は徐々に汚されてゆき、エリアの瞳から流れる美しい青の涙は、次第に黒く染まってゆく。
「……頼む、話だけでも聞いてくれ。このまま泉が汚れていくのは見たくないし、青く美しい君を闇に閉ざしたくないんだ。君はここにいるべきではない。帰るべき場所がーー」
彼女に伝えなくてはならない事実を告げるよりも早く、それ以上話すなと言わんばかりの剣幕と、その先から零れ落ちる青い涙の強襲により言葉は寸断され、ソレから逃れるべく踵を僅かばかり数歩下げる。
《うるさい、うるさい、うるさい!! お願いだから消えて……嫌なの、思い出すの……だからお願いよ、消えて、消えてぇ!!》
「くそっ、エリア! 僕の話を……」
紡ごうとした言葉は彼女の怒号によってかき消され、先ほどの一撃よりもう一段階ほど威力が向上した青の礫を放ってくる。
何とかその攻撃をかわしつつ、距離を取って再び木影に隠れては呼吸を整える。
昨日までは普通に話せていた彼女をここまで乱れさせたのは、僕が原因でもある。彼女の心を乱す何かを、すぐそばに連れてきたのがトリガーとなった。
何となく察してはいたし、すべき行動でも無いと考えてた。けど僕の立場からしてみれば見逃せるものでは無かったし、それに彼女と話してきて、彼女はここにいるべきでではないと、僕が勝手にそう思ったのだ。
怖気付く訳にもいかず、小さな水溜まりを踏みしめるとそのまま前へと出る。
《エレン、お願いよ……》
「エリア……」
彼女の瞳を直視出来ない。懇願する声色で名前で呼ばれてしまうと、決意が揺らいでしまいそうになる。
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