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諸岡奏多に聞きたい。
自分のつくったものが空を飛ぶ機体の一部を担うという事実は、まるで自分自身が鳥になるような感慨を覚えるのか。
南は自分自身のまま、諸岡奏多になりたいと思った。
身に宿してわかる。羨望は、きっと憎しみよりも根が深い。相手が存在している限り終わることのない、業が深くてやっかいな感情だ。
最後のエサで釣ったちいさなサバを針から外す。さばは模様がかっこいいから好き。だけどあまりにもちいさすぎるから、ぽちゃんと海に落として返す。
「行こうか」
いつの間にか後ろにいた栗原が言った。
堤防を歩く栗原の、すっとした背中を「ねえ、栗原さん」と呼びとめた。
「ん?」
栗原が振り返る。
陽が落ちて夜の静かな青に包まれながら、心だけ真っ赤な夕焼けの世界にとり残され、どこにも帰れない自分がいる。
「ひとつだけ、聞いてもいーい?」
「いいよ」
ずっと思っていたことがある。国友のじーちゃんにも沢にも、松永本人にも怖くて聞けなかったこと。
だって・・・誰かに聞いて、「その通りだよ」って言われたら認めなくちゃいけなくなる。
「レモラって、栗原さんがつくったんだよね・・・?」
「そうだよ」
「松永さんに頼まれてつくったんだよね?」
「そうだよ」
認めなくちゃいけなくなる。松永が、今もまだ諸岡奏多の声を必要としていること。松永が、今もまだ諸岡奏多とどうしようもなく一緒にいること。
「ねえ栗原さん。レモラって、まるで諸岡さん『そのもの』みたいだね」
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