289人が本棚に入れています
本棚に追加
/80ページ
「夜の高速道路が好きだから」
「どんなところが?」
「特別なところ」
答えるとがぱっとからだを乗り出して「どうして特別だと思うの?」と強い興味を示された。南はちょっと考えてから「おじさんセダンとかおばさん軽がいないところ」とごまかした。
「ふーん・・・だけどその分私達のこと人間だと思ってない奴らがうようよいるけど? まあ、こっちもあいつらのこと障害物だと思えば楽しめるか」
女はそう口にしたあと短いため息をついた。
「なあんだ・・・」
ベンチに背中を預けながら細い首を反らし、白い星が散らばる天井を仰いだ。
「期待はずれな答えだった?」
「別に。ただ、君はここの噂を知ってて走ってるんだと思ったの。そういうわけじゃないんだね」
「噂って?」
「今私達がいる足鷹SAを挟んだ忍野崎から桃源ヶ原の150キロ区間を、一部のバイク乗りは『亡くしてしまった大切なものをもう一度取り戻せる場所』、そんな風に呼ぶ。あるじゃん。願いを叶えてくれる神社やお寺みたいなの。パワースポットっていうの? それと似たようなもの」
「そんなの本気で信じてるの?」
「うん、信じてるよ」
揺るぎのない意志の籠められた声だった。
フライパンの上で溶けはじめたバターみたに淵のにじんだ月を、真昼の太陽でも仰ぐように瞼を細めて見つめながら「たとえば、こんな人がいたの」と続けた。今夜の自分達のように真夜中のサービスエリアで知り合ったバイク乗りの話だという。
最初のコメントを投稿しよう!