ひとつまえの自分

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『夢の外で君は、いも虫からさなぎに変化しようとしている。僕はもう干渉できニャい。お役目おしまいなのニャ』 「最後なら・・・ひとつ教えてよ」 『ニャあに?』 「子どものころ、図書館でお前にそっくりな生き物が出てくる絵本を見たんだ。家族にも友達にも見えないわたしの友達って書いてあった」 『その絵本を描いた子のことはよおく知っているのニャ。絵描きになるために人間になりたいと望んだ縞模様の子。パサッっとした短い毛のオンニャの子だったニャ。彼女も君と同じくらい僕のお気に入りだったニャ。僕を主人公にしたあの絵本はよくできていたニャ~。創造主として誇らしいニャ」 「何者なの?」 『君たち人間は僕のことを運命とか奇跡とか、死神とか悪魔とか、いろんな名前で呼ぶよね。「運命に導かれて」「奇跡の子」「死神に取りつかれた」「悪魔が囁く」ニャーんてさあ。でも僕自身、自分が何者なのか考えるのは何世紀も前にやめたニャ』 「あの絵本の中のお前は、玩具のボタンを縫い付けたみたいな偽物の目をしてた」 『元来人間に生まれ変わる予定じゃない者を人間に飛び級させるのは裏口入学と同じで重大な違反行為ニャ。だから罰はまぬがれニャい』 「自分の目を取られてまでどうしてそんなことするの?」 『目は時間がたてば元に戻るし、痛い思いをした分、面白いものが見られるからね』 「その人は今もまだ生きてる?」 質問はひとつだけじゃ収まらなかった。 『もうとっくに亡くなってるニャ。1700年代のことだもの』 「その人も俺と同じように怖い夢を見てたのかな?」
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