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「今日はアイツらに会わないで帰れるかな……」
書店の前でオレはつぶやいた。
空には星と月が輝いている。
今日は満月だ。
腕時計の針は9時を指していた。
オレは家のある方向を見てため息をついた後、家へと駆け出した。
オレは朝倉梓(あさくらあずさ)。
オレはこの書店でアルバイトをしている大学生だ。
バイトが終わるのはいつもこれくらいの時間帯だ。
普段は誰かと一緒に帰るのだが、今日に限っては一人だ。
オレにとっては最悪としか言えない状況なのだ。
それはオレの特異体質と関係していた。
一つ目は霊や妖(あやかし)、つまりこの世のものではないモノが見えるということ。
二つ目は…………。
そこでふとオレは足を止めた。
オレは人通りの少ないこの道で人影を認めた。
金髪で長身の男だ。
金髪の男は含み笑いをしながら近づいてくる。
「へぇ、君、俺のこと見えるんだ?」
瞬間、背筋にゾクッとしたものを感じた。
コイツは危ない、と脳が警鐘を鳴らす。
「君、いい身体、持ってるねぇ。お兄さんが喰べてあげるよ」
その途端、男の身体がドロドロと溶けだした。
間違いない。
コイツは妖だ。
オレはそれを確認すると、隙を見て一目散に逃げだした。
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