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管理棟の中を窓から覗くが、誰もいない。ドアノブに手をかけると鍵はかかっていなかった。少し開いて覗くと、埃の積もった机が見えた。床にも厚く積もっているため、管理はしてなそうだ。そして、誰かが忍び込んだわけでもなさそうだ。
「気にしすぎか」
と一人呟き帰ろうとした時、管理棟の裏から淡い光が漏れていることに気づく。
覗き込むと、そこには一瞬理解できない光景が広がっていた。
空間に穴が開いていた。
淡く光る円状の枠が空中に浮き、その中は灰色の街が広がっている。
「なんだ、これ」
円の裏に回ってみると、何も見えなくなる。
虹は反対側からは見えないという先生の言葉を思い出した。
穴に首を突っ込み中を覗く。
空も、建物も、何もかも灰色の世界が広がっている。そして、それらは全て壊れ崩れていた。
「行ってみるか……!」
好奇心に負け、枠を乗り越え世界を超える。
色彩のない世界を、オレはゆっくりと歩き始めた。
▽
「くそっ、くそっ!」
隻腕のキャンサーは走る。
あのガキは撒けただろうか。もうレベル1達の声はしない。
あれがキャスター。ゲートを守る者。
このままでは勝てない。もっとレベルを上げないと。
レベルを上げるために必要なのは、大量の言語癌を喰らうこと。
もしくは、人間を喰らうこと。
──そう。ちょうど目の前に現れた、この子供のような。
▽
「う、うわぁぁぁっ!!」
思わず大声を上げた俺は、尻餅をつくことすらできず固まった。
灰色の世界に突如現れた黒い怪物。こちらを見て、ニヤリと顔を歪め笑っている。
「なんだ、こいつ......!」
逃げなければと思うが、身体が固まって動けない。
一歩、怪物が近づいてくる。片方しかない腕がボコボコと膨らみ、巨大な鉤爪になった。
──殺される。
鋭く光る鉤爪が、ゆっくりと振り下ろされた。
刹那。
「危ないっ!」
と、右から声が聞こえた。
同時、凄まじい衝撃が肩に加わり、オレは軽く吹っ飛ばされる。
コンクリートに顔面からダイブし、「あれ、今日これ二回目」などと考えた。
顔を上げ振り返ったオレは、青い鎧を纏った先程の少年が少し離れた所で倒れ伏しているのを見た。
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