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▽
燃え盛る炎の柱が、少年の身体を包み込んだ。
彩ない世界に、突然加えられた強烈な赤。
呼応するかのように、スズリの無線機が息を吹き返す。
向こうから聞こえてくるのは、驚愕に声を上げる諏訪の声
『スズリ!何があった!応答してくれ!おかしいぞ、こちらのモニターには』
『キャスター反応が二つある!!』
スズリは返答できない。
炎の柱が消え去った後、そこに立つ少年。
ゆっくりと振り返った、彼の胸に灯る炎。
ずっと守ってきた。
キャスターとして、この世界を。
そんなスズリが、初めて言われた「守る」という言葉。
「待ってろ。アイツ、ぶっ飛ばしてくる」
そう笑った彼の笑顔に、スズリは見とれてしまっていた。
▽
胸の底から湧き上がる力に、ユウキ自身かなり戸惑っていた。
だが、不思議とどう使えばいいかわかる。
拳を一度開き、強く握る。
すると、拳にカッと熱が集まり火が点いた。拳を覆うように燃える炎は暖かい。
唖然としている怪物を正面に見ると、そいつは一歩後ずさった。
「なんだ、お前。なんなんだお前!!」
しかし、吠えた怪物はこちらへ飛びかかってくる。
鉤爪を振り上げ、オレの体を真っ二つに──
「遅せぇよ」
力の限り突き出した、炎を纏った拳。
怪物のガラ空きのボディに一撃。
フッと怪物が宙に浮く。
──終わらないぞ。
足に力を込め、怪物が地に落ちるより早く三段蹴り。世界がゆっくりと流れる。
そう。きっとこの熱は副産物だ。この力の真価は、湧き上がるこの原動力にある。
言うなればエンジン。父さんの言葉で加速するこの身体は熱を持つ。
「ぉぉおおおっ!!!」
最後に繰り出した正拳突き。
怪物の胸に深く突き刺さり、ぶっ飛ばす。
遠く飛んだ怪物は、瓦礫の山にぶつかって動かなくなった。
スゥと抜けていく力と熱を感じながら、背後を振り返る。
呆然と見つめる彼に「へへ、やったぜ」と笑うと、グラリと世界が傾いた。
「おい!大丈夫か!」
そう叫ぶ彼の声を遠く、遠くに聴きながら、オレの意識は深く落ちていった。
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