第1話

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▽ 「ユウキ」 真っ白い世界に、父さんがいた。 あの日のように、オレの頭の上に手を乗せて言う。 「覚えていてくれて、ありがとう」 ▽ 目がさめると、見知らぬ白い天井。 首を傾けると、掛け時計が8:30を示していた。 「遅刻っ!?」 「夜の八時だよ」 声に驚き上半身を起こすと、先程の少年が座っていた。 文庫本を閉じると、「大人呼んでくる」と部屋を出て行こうとし、 「すまない。今日は助かった、ありがとう」 そう言い残し今度こそ出ていった。 「......助けられたのはオレなんだけどなぁ」 そう頭を掻き、もう一度枕に頭を乗せる。 もう一つの世界。怪物。炎と力。まるで漫画のような今日1日の体験を思い出しながら、胸をギュッと握った。 「......父さん」 「目を覚ましたかユウキ君!!」 「うおっ!ビックリした!」 ドアを全開に大声で入ってきた熊のような大男。隣の女性に「病人ですよ」と窘められている。 「あの、あなたは、あと何でオレの名前」 「ああすまんな。俺の名前は諏訪悠一、言語癌対策本部の司令官をやっている。君の名前はお母さんから聞いた」 そう言うと同時、入り口から母の顔が覗く。どうやら今走って来たみたいだ。 「あぁー。もうユウキ!あんたはどんだけ母さんを心配させたらいいの!」 「怪我は?痛くない?」とひとしきり聞いた後、諏訪と名乗った男に深く頭を下げた。 「息子を助けていただき、本当にありがとうございます」 「お母さん、頭をあげてください。むしろ助けられたのは私たちの方なんです」 母さんはゆっくり頭を上げると、再びこちらを向いた。 「これからお世話になるんだから、あんたもちゃんとお礼言っときなさい」 「え、ああ。ありがと......え!?」 これからお世話になるという部分が引っかかり、思わず聞き返した。 「ユウキ君。君が今日出会った怪物は、キャンサーと呼ばれる。正常に機能しなかった言葉から生まれる、言うなれば〈言語の癌〉だ。奴らを倒せるのはキャスターと呼ばれる特別な力を持った者だけ」 諏訪は一度息を吸うと、 「君はキャスターなんだよ」 そう言った。
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