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「キャンサーがこちらの世界にやって来ると人が大勢死ぬ。それを止めるのが俺たち言語癌対策室だ。まぁ秘密組織みたいなものだと思ってくれればいい。ユウキ君、君が良ければなんだが、我々の仲間にならないか?キャスターは日本に数人しかいない。現在東京はスズリ君、ああさっきの子だが、彼一人で保っている。君が来てくれると、助かる。世界を救う、手助けをしてほしい」
諏訪は深く頭を下げた。量の拳が横で握られている。
「はい。オレ、あいつらと戦います!」
オレは即答だった。
「この力で、誰かが守れるんだったら!オレはここで、あいつらと戦います!」
▽
「お母さん」
部屋を出た諏訪はユウキの母親を呼び止める。
ユウキは今日、大事をとってここに泊まることになったため、彼女は着替えを取りに行くところだった。
「貴女は、この組織の事をご存知だったんですか」
諏訪は疑問だった。
ユウキを対策室へ引き込むため彼女と話した。
相当な反発、心配を覚悟していた諏訪だったが、「わかりました。どうかよろしくお願いいたします」と、すんなり受け入れられたのだ。
更に、キャンサーやキャスターといった話にも、あまり動じる様子がなかった。
「いえ、初めて聞きました」
「そう、ですか」
「......でも、どこかで聞いたことがあるような気がするんです」
彼女は、一人の男性を思う。
かつて自分が愛した男性。
今はもう、何も覚えていない人。
覚えていないことに涙した日々。
「きっとあの人が、何か言っていたのね」
▽
楽しそうに話すユウキと母親。
その部屋の外で、暗い廊下に一人、壁に背を預け立つスズリは、唇をかんだ。
▽
「ナタリア。ご飯、置いておくわね」
地下基地の一室。司令官補佐の女性、志田百合はトレーを壁の前に置いた。
壁。と言っても、部屋の壁ではない。
部屋の中心にある奇妙な立方体。部屋の半分ほどの面積を取るそれが、ゴゴと音を上げて入り口を開けた。
密閉されていた立方体内に、僅かに生まれる隙間。
そこから、一人の少女が顔を覗かせた。
立方体の中の彼女は、透き通るように白かった。
髪も、肌も。ただ紅い瞳が潤んで見つめる。
「ありがとう。ごめんなさい。もうちょっと、もうちょっとだけ待って。しっかりするから。もう、ちょっとだけ」
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