第1話

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ハッと、目を覚ました。 ──またあの夢か。 ジトリとした嫌な汗で、パジャマが張り付いて気持ち悪い。 顔を横に向けると、使い慣れた置き時計。通信教育の付録だったか、マスコットキャラが満面の笑みでピースサイン。 ちっとも笑う気にならない。夢もそうだが、今の時間。二本の針が指す8:30という絶望。 「遅刻だぁぁっっ!!!」 布団を蹴り飛ばしランドセルを取ると、転がり落ちるように階段を降りる。 歯磨きをしながらパジャマを脱ぎ、箪笥の一番上の服を着た。赤いシャツに英語で何か書いてある。意味は知らない。 勢いよく口をゆすぎ、リビングへ。 「食パン食パン!」 テレビでは、最近連続して起こっている児童誘拐事件。ニュースはこの話題ばかりだ。 キッチンに立つ母の後ろを潜り、レンジ横に置かれた食パンを一枚抜き取った。 「え、ちょっと、ユウキ!?」 「行ってきまーす!!」 テレビでは代わって、今やっているドラマの宣伝を主役の少年がやっていた。 よく滑る玄関。 雑に靴を履き、扉のロックを外す。 そして勢いよく外に飛び出そうとして、扉が開かない。 二重ロックだったことを思い出し、ドアノブ下のロックも解除すると今度こそオレ、焔音ユウキは、8時45分始業の学校を目指し駆け出した。 ▽ 五分後、オレは地元の商店街を走っていた。朝から賑やかな赤山第一商店街は本来の通学路とは違うが、こちらの方が近道なのだ。 とは言っても、ほぼ毎日遅刻と戦うオレにとってはこちらがメイン通学路だと言っても差し支えない。 「よぉユウキ!今日も、くくっ、大変そうだな!」 八百屋のおっちゃんがいつも通り笑うが、何か今日は嫌な笑いをしていた。 「むほほほほほっほひーほほー!(遅刻しなきゃいいんだよっー!)」 言葉が伝わったか定かではないが、そんなことに構っている時間はない。豪快に笑うおっちゃんの声を背に学校へと走る。 生まれた時から住んでいるこの街。オレは変わらないこの街が好きだ。 いつもと変わらない顔ぶれ─ただ今日はいつもより人数が多い─をすり抜けて、途中の路地に入る。 路地を抜けると、赤山第二商店街。引っ越してきたときは活気があったらしいが、今はほぼシャッター街と化している。 誰もいない第二商店街は、全力疾走にはもってこいの直線。路地を走る速度も自ずと上がる。 そして、路地を抜けた瞬間。 「うおっ!?」 と、右から声が聞こえた。
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