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同時、凄まじい衝撃が肩に加わり、オレは軽く吹っ飛ばされる。
コンクリートに顔面からダイブ。そして先程まであった物が無くなっていることに気づく。
「食パン!」
バッと顔を上げて周りを見回すが落ちていない。そこに、背後から声がかかった。
「すまん。走っていたら止まれなかった。怪我はないか?」
声の主の方を振り返ると、一人の少年が立っていた。同学年か一個上。端正な顔立ちだ。そして、その手にはオレの食パン。
「こっちこそごめん!あと食パンありがと!ごめん急いでる!じゃ!」
飛んで起き上がると、食パンを受け取り、大きく手を振りながらまた走り出した。
しばらくぽかんとしていた彼に、オレは思う。
「すごいな。あんな衝撃だったのに、転ばずにパンまでキャッチするなんて」
細っこかったのにな。そう彼の事を考えるのは、視界に学校を捉えた頃には終わっていた。
▽
一方ぽかんとしていた側の少年─刀道スズリ─は、耳元の通信機から聞こえる声に反応する。
『スズリ、何かあったか?』
「いや、漫画みたいな出逢いをしました」
『......なんだそれは。いや、それよりもだ。恐らくその辺りに〈世界の穴〉はある。捜索にあたってくれ』
「了解」
短くそう言って、少年は無線を切った。
ふぅ。と短く息を吐き、ユウキが去った方を見つめる。
「なんだったんだあいつ、ランドセルなんか背負って。今日日曜日だぞ......」
▽
ある研究室。奥に置かれたパソコンが見えないくらい堆く積まれた紙束。
「なんなんだよもーー!」
オレはグッタリと机に突っ伏して、脱力の声を上げる。
「はっはっは!日曜日って気づかなかったのかユウキ!パン咥えて全力疾走して?傑作だな!」
そう言って腹を抱えて笑うのは、この研究室で働く言語学者、伊吹信元。いや、本人曰く〈言葉の医者〉である。故に文系博士のくせに白衣を着ている。
学生時代に、暗号や未解読文字を自動解読する装置を発明して一部で有名になったらしい。
同じく言語学者だったオレの父さん、焔音真一の仕事仲間であり、小学生時代からの親友だそうだ。
父さんも白衣を着ていたというのは、写真を見せるまで信じていなかった。
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