0人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
▽
「レベル2一体、レベル1三十体。真っ直ぐ東京ゲートへ向けて進行中です!距離780!」
「霊層による電波障害強度B !通信可能区域、半径600!」
「抗言語癌弾〈アルキン〉発射。着弾まで、3、2、1!目標命中!......ダメです!対象以前進行中!」
「よし。対峙戦線を500に設定。〈トポイソメラン〉阻害弾も試せ!それがダメなら次だ。1秒でも進行を遅らせろ!」
言語癌対策本部司令室。アラート音と鋭い声が飛び交うここは緊張に包まれていた。
モニターに映し出されるのは、荒廃した東京。
ビルは倒れ、コンクリートは砕け、至る所に瓦礫が散乱した、地獄のような光景。
ただ、そのモニターに映る光景には色彩がなかった。
空も、ビルも、家も、車も。全てが薄い灰色でできている。
そう。このモニターに映るのは人々が住むこの世界では無い。
この世界に並列して存在するもう一つの世界。〈言語世界〉と呼ばれるそこは、人が「言霊」と呼ぶ見えざる力が集まる世界だ。
「ただいま戻りました」
司令室の扉が開き、入って来たのはスズリ。
モニターをさっと見渡し、瞬時に状況を把握した。
「俺は、いつでも行けます」
それを聞いた相手。似合わない黒のスーツに身を包んだ熊のような大男。スーツが筋肉の形に歪んでいる彼、諏訪悠一は大きく頷いた。
「ナタリアは今回も駄目そうだ。頼むぞ、スズリ」
そう言って、諏訪は足元から青いアタッシュケースを取り出す。金属光沢を帯びたそれを、スズリに手渡した。
「司令。迫り来る言語癌達を殲滅せよ」
「了解」
短く返すと、スズリ踵を返し司令室を出た。
▽
『スズリ君、ゲート到着!ゲート解放準備よし。霊層安定。行けます!』
『よし。ゲート解放!』
無線の向こうから、諏訪司令の叫びが聞こえると同時。スズリの眼前の円状の扉が、ゆっくりと、重い音を立てて開き始めた。
ゴォと、強風がゲートの奥から吹く。
白青の光で溢れるゲートの向こう側に、スズリは何のためらいもなく走り出した。
最初のコメントを投稿しよう!