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鉤爪を振り下ろす。人間には絶対に止められない一撃。
スズリを斬り殺すその一撃はしかし、止まる。
自身の身体よりも大きな鉤爪を止めたのは、スズリが握った小さなナイフだった。
「〈言葉のナイフ〉」
スズリがそう言うと同時、もう片方の手にもナイフが現れ、鉤爪を根元から斬り落とした。
「お、おぉぉぉっっ!!」
思わず飛び退るキャンサーを、変わらずスズリは冷たい目で見ている。
キャスター。本来体内に保存などできない言霊を、体内の特別な器官に保存する存在。
まだ世界中で数人しか見つかっておらず、彼らは全て、「言葉に関する能力」を持っている。
スズリの能力〈言葉のナイフ〉。
体内の言霊を消費し生成する刃物は、キャンサーを軽く斬り裂く。
「行くぞ」
そういうと同時、幾本ものナイフがスズリの両手に生まれ、投射。レベル1のキャンサー達の眉間に吸い込まれた。
「まずは8体」
「くっ。かかれ!殺せ!」
数体のレベル1がスズリを囲み、一斉に襲いかかる。
しかし、スズリは生み出した長剣を横薙ぎに回転。真っ二つに切り捨てた。
「次」
新たにナイフを生成し、何処までも冷たく言うスズリに、
「ひっ……!」
思わずそう声をあげたキャンサーは従えたレベル1を残し、一人背を向けて逃げ出した。
『スズリ、奴を逃せばレベル3になる可能性がある。追ってくれ!』
「わかってます。通信範囲外になる前に仕留めます」
この会話が終わった時、30体のレベル1はもう一体も動かなかった。
▽
場所は変わり、同時刻。伊吹の研究室を出たユウキは、帰路を歩いている。
商店街の近くの病院を通りかかったとき、いつもは閉まっている門が開いているのを見つけた。
病院横の小さな池の管理棟があるらしいそこが、開いているのを見るのは初めてだった。
ふと近づいて見ると、チェーンが断たれていた。
「うわ……空き巣とかか?」
伸びきった草葉で日光が遮られ薄暗いそこは、少し気味悪く感じたが、「何かあっても見るだけ」と言い訳し、門の奥へと進む。
道にまで伸びた枝を手で払いながら一分ほど歩くと、古びた管理棟に辿り着いた。
「本当に管理してんのか、これ?」
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