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その子は俺を邪神として見ていなかった。子供ゆえの純真さではなく、本人の意思で。
親が疑問を抱いていたことも大きい。これはスサノオのおかげだったと今は知っている。あいつはいいやつで、俺を見捨てず、子孫に働きかけていてくれたんだ。
「あたしのなまえはとうこです。よろしくおねがいします」
返答などないと分かっていて、少女は話しかけてくれた。
「かみさま、おそなえものもってきました」
「かみさま、きれいなおはなどうぞ」
その日から、毎日来ては何かしら持ってくる。その子の訪れだけが暗闇の中さす一筋の光だった。
―――話したい。
檻の中から、せめて指先だけでも出して触れたい。
願ってはいけない願望が生まれていく。
駄目なのに。俺は罰を受けなければならない。それが彼女の望みだ。
母を奪い、人生をめちゃくちゃにしてしまった原因である、俺のせめてもの罪滅ぼし。
……でも、東子が来ると気持ちが揺らぐ。
必死で外に出たいという思いを殺しながら何年も経った。
すっかり大人になった東子はある日、菓子を持ってきた。
毎日欠かさず供えてくれるのに、俺は食べられやしない。
ごめんな。お前と一緒に食べられたらどんなに楽しいか。
俺は誰かと食事などしたことがない。わずかな食事しか渡されず、それすらもほとんど母が奪っていく。ほんのわずかな栄養でも生き延びれたのは、神の血のおかげだ。
東子は花火大会があると言う。平和で豊かな時代なんだな。俺もそんな時代に生まれたかった。隣で見てみたい。
寂しい。苦しい。悲しい。
そう思う資格はないと禁じてきた感情がこみあげる。
もう独りでいるのは嫌だ。
☆
東子の悲鳴が聞こえた。
火事か。洞窟の入り口を燃え盛る炎がふさぐ。
「苦しい。苦しい」
苦しいのは体か心か。
それとも両方か。
「助けてくれ」
言ってはならない言葉が出た。
―――そうだ、ここから出なければ。
ここからでは見えない。東子は無事なのか?
血の気が引いていく。
俺を孤独から救ってくれた、あの優しい少女を守らなければ。
「神様!」
東子が飛び込んできた。怪我を負いながら。
つーっと、涙が頬をつたった。
泣いた記憶はほとんどない。泣けば母に殴られたからだ。
ごめん、母さん、姉さん。
俺が小さい頃自殺してればよかったんだ。
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