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墓地よりだいぶ手前で止まってる。固い顔で立ち尽くしていた。
「九郎?」
ゆっくり近づき、袖を引っ張る。
九郎が驚いたように振り返った。あたしだと分かり、ホッと息を吐く。
「気づかないなんて珍しいね。大丈夫? 顔色悪いよ」
「……ああ、大丈夫だ。東子の顔見て楽になった」
「ここ、お墓だよ? あ、もしかしてお姉さんのお墓参り?」
あたしの先祖は九郎の異母姉だった。彼女は普通の人間で嫡出子。九郎は父親違いの非嫡出子だ。
彼女は九郎への恨みを利用され、封印するよう仕向けられたとこの前判明した。
「……今日はちょうど彼女の誕生日なんだ」
九郎はお姉さんを「彼女」と言う。恨まれていて、姉と呼ぶことすら許されないと思ってるから。
「そうなんだ。じゃ、お花あげよっか。どれがお姉さんのお墓か分からなくて困ってたの?」
「いや……いい。分かってて墓所に入らなかっただけだ。……入れなかった。彼女は俺の訪れなんて望んでないだろう」
寂しそうに言う。
「まぁ、もう彼女の魂はここにないし……俺の気持ちの問題なんだがな」
九郎はあたしのおでこに額をくっつけた。
「スサノオにも話しておけと言われたし、ちょうどいい頃合いだろう。見てみるか? 昔一体何があったのか―――」
頭の中で映像が再生される。
ずっと昔の九郎の記憶が見えた。
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