第二章

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第二章

 俺はある貧しい村に生まれた。  母はそこの村長の妻だった。ゆえに、八岐大蛇が現れた時、村人たちは母を差し出して逃げた。結果、生まれたのが俺だ。  村人たちは自分たちが助かるために母を人身御供にしたくせに、「穢れた女」だと迫害した。村長さえ妻を忌むべきものとして扱い、監禁。  それでも俺たちを殺さなかったのは、八岐大蛇が「子を殺した」ことを口実に攻めてこないようにだろう。  神の血を引く俺は成長が早く、あっという間に十歳くらいの体になった。八岐大蛇も水神の一種だからな。  常軌を逸した成長スピードも母の精神状態を悪化させた。  ある日胸を刺して自殺したよ。その日は異母姉の誕生日だったな。陽気な音楽が聞こえてきて、村長がわざわざ言いに来た。  母が使った刃物は、村長がわざと置いていたんだ。殺すのはまずくても、自殺なら問題ないだろうというわけだ。  血まみれの母に、俺は真っ青になりながらも近づいた。 「……お、母さん……っ、死んじゃうよ! 今助けるから……っ」 「触るな、汚らわしい!」  母は瀕死の状態に似合わぬ力で俺を突き飛ばした。牢の格子に激突する。  痛みはなかったよ。マヒしていたのかもな。  母はすさまじい憎しみと恨みの目で睨んでいた。 「……お前さえ、お前さえいなければ……っ」  ―――次の瞬間、ガハッと大量の血を吐いて死んだ。 「おかあ……さん? お母さん……」  母は―――俺に『お母さん』と呼ばれることも嫌がっていた。俺が子供だと認めたくなくて。 「僕の……せい? 僕が生まれたせいで、お母さんは死んだ。みんなめちゃくtyないしてしまった。僕がいなければ……っ!」  絶叫が響きわたり、牢が破られた。  ごめんなさいごめんなさい。  泣き叫びながら、とにかく走った。何日走り続けたか分からない。  誰も住んでいない土地まで来て、ようやく止まった。  ……ここなら誰もいない。独りで、ひっそり暮らそう。誰にも迷惑をかけたくない。  今は街のあるこの辺りも、当時は何もない荒野だったんだ。他の神も住んでおらず、やせた土地をわざわざ開墾しようとする人間もいなくてちょうどよかったんだ。 ☆  何年もそうやって隠れるようにして暮らした。 ☆  ところがある日、遠くを八岐大蛇が進んでいくのが見えた。俺も神だから、千里眼くらい使える。すると、あちこちでまた悪さしてるのが分かった。
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