第二章

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 見上げれば、満月が明るく輝いていた。これならよく分かるだろう。  たくさんの松明が周りを取り囲む。 「……見つけたわよ、この邪神め……!」  異父姉の顔は憎しみにゆがみ、醜かった。  おかしい、と気づく。憎悪は昔からあったが、これは異常だ。  まるで誰かに煽られているかのような……。  一瞥してすぐ犯人が分かった。彼女の隣に立つ夫ではなく、後ろに立っている男だ。隠しきれない邪悪な笑みが浮かんでいる。  俺も神のはしくれ、状況は理解した。なるほど、こいつも彼女が好きだったんだな。しかし彼女が選んだのはそこの夫。  ま、遠くから見つめていただけでは仕方あるまい。  奴が怪我したのを通りがかりの彼女が手当してやったことが始まりらしい。それをこいつは「彼女がこんなに親切にしてくれるのは自分だけ。彼女は自分が好きに違いない……!」と思い込んだ。とんだ勘違いである。  彼女にとっては単に困っていた人を助けただけで、顔もすぐ忘れてしまった。次会った時初対面と思っていたのを、奴は「照れ隠し」と都合よく考えた。 「恥ずかしくて好きだと言えないのか。なんて初々しい。そこまで好きなのか……!」  妄想は次第にエスカレート。とうとう彼女と結婚できると信じ込み、今でいうストーカーと化していた。  が、奴は想いを表に出さなかった。 「彼女が恥ずかしがって隠しているんだから、こっちもそうしよう。でも結婚に向けて準備はちゃんとしておくからね。ふふふ……いつでもうちにおいで」  不気味なことに、勝手に花嫁衣裳まで用意する始末だ。独り暮らしの家にいつでも彼女が来れるよう、あれこれ調度品も準備していた。  が、彼女が婿をとった。  一方的な思い込みと妄想が叩き潰され、奴はこの時狂った。  復讐計画を綿密に立てる。元からある彼女の俺への憎しみを利用し、殺させようと考えた。そのために知識や技術を身につけた。  彼女はまんまと罠にはまり、、こうしてここに現れた―――。 「…………」  俺は空しい笑みを浮かべた。  そういうことか。  ……でも、いいよ。  俺を殺すことで、姉さんが解放されるなら。大人しく殺されよう。  もとより彼女が刃を向けてくることがあれば、抵抗せず受けようと決めていた。  憎しみをすべて俺が引き受けることで、彼女が幸せになれるなら。 「お前さえいなければよかったのに!」  彼女は叫んだ。
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