第二章

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☆  暗い牢獄に入れられ、厳重な檻が作られた。  奴は言った。 「封じたとはいえ、見張りが必要ですね」  彼女は進んで立候補した。夫と共に移り住む。 「あいつの苦しむ姿を毎日見られるのね。楽しいわぁ」  神社を作り、監視人となる。  奴はそれより立派な神社を作り、自分が『英雄』として祭り上げられるよう着々と準備を進めていた。  あの村からは多くの人間が移住してきた。奴が付近の川で砂金を見つけたのが主な理由だ。  実はこれ、奴の八百長。このころすでに人間ではなくなっていた奴は、邪法を使って妖や悪霊を取り込み、危険な力を身に着けていた。その力で仕込んでおいただけ。  他にもわざと人を病気にして治療するとか、奇跡を演出。とうとう生き神となっていた。  俺には何もできなかった。 ☆  ある日、スサノオが訪ねてきた。 「おいっ、ろくでもないことになってんじゃねーか。高天原の会議で、お前を助け出し、村人たちに罰を与えると決まったぞ。今出してやる、オレ様なら簡単だ」 「……いや、いいんだ。やめてくれ」  神同士なら封じられていても会話くらいできる。 「このままでいい。これが彼女の望んだことだから」 「間違った望みだぞ」 「たとえ嵌められたのだとしても、彼女の心の根底に俺への憎しみがあるのは事実。今は無理でも、彼女が死ぬまでこのままなら満足するかもしれない。……俺は彼女を救いたいんだ。それが俺の唯一できる罪滅ぼしだから」  姉さん。 「村人たちにも罰を与えないでくれ。頼む」 「お前、このままでいいのか? 悪役にされ、監禁されてんだぞ!」 「……いいんだ。ありがとな、スサノオ―――お前はいいやつだよ」 「お前のほうがいいやつだろうが……っ」  スサノオは俺の頼みを聞いてくれたようで、村を不幸が襲うことはなかった。 ☆  彼女は年老いてもなお、時々来ては恨み言と嘲笑を置いていった。  彼女亡き後は子孫が。  その訪れすらほとんどなくなって、俺は独りになった。  季節が巡っていくのを、暗い洞窟の中で檻越しに眺めていた。  いっそ狂えれば楽だったな。でも、彼女の望みは未来永劫俺が苦しむこと。それを叶えるためには発狂することもできず、意識を保ち続けなければならなかった。  もはや時間の概念すらなくなるほど長い長い年月が過ぎたある日。  その子はやってきた。 「はじめまして、かみさま」  小さく、無垢な少女。
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