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そんなの、いいわけない
落ちていく。
奈落の底へと。
(どちらが幸せだろう?)
ダンジョンの数百層を貫く裂け目――地下の『大渓谷』を落ちながら、エリカは思った。
(このまま死ぬのと)
(このまま生きるのと)
(どちらが幸せだろう?)
(しかし――)
落下は加速し、闇は深さを増していく。
わずかな光さえ、どこかへ染み出すように失せて。
それを見つめる、彼女の瞳と同じく。
(しかし、私にその資格があると?)
(『王国一の醜女』と呼ばれる、この私に)
(ただ、確かなのは――)
ただ仮面だけが――エリカが生まれたその日から被せられている、仮面。『王国一の醜女』と呼ばれる彼女の顔を覆い隠す鋼の面だけが、くすんだ鈍い光沢を、闇にまたたかせていた。
(確かなのは、今日までの私が幸せであったこと……それだけだ)
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
『王国一の醜女』
世間は、エリカをそう呼んでいる。しかし、生まれた時は違った。醜いとすら言われなかった。身を縮こまらせる産婆に向かって、エリカの父であるダイナ=サージェス男爵は、こう訊ねたのだった。
「それは、何だい?」
「娘です――私達の!」
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