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座敷物語
桃色のカーテンで閉じられた室内は、ゴミ一つ無く、引っ越しの準備が終わった部屋のように、整然と掃除がされていた。知歩は机の上にピンクのスマホを置くと、胸のなかで物語を紡ぎ始めた。自然と口角が上がってくる。
『私はある日、思いつく。テストの日、突然消えてしまえば、楽しい物語が始まるのではないかと……』
寺島知歩は制服の上にコートを羽織ると玄関から顔を出した。庭で寺島加純が洗濯物を干していた。
「おはよう」
知歩は爽やかに言った。加純はツンと無視を決め込む。
『私は母と長い間、冷戦を続けていた。だが今日の私はいつになく気持ちが晴れやかだった。私はいつもより一つ多めに持ったスポーツバックを背中に回すと、母の背中に言葉を掛けた』
「いってきます」
加純はなおも愛想をしない。知歩は微笑みバックを背負った。
『……母は私の異変に気づくことはなかった』
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