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(センパイ)
祥爾が神楽踊るって聞いてどんなのかと思って来たけど、超地元の祭りだった。
親世代ばっかで微妙に浮いてるし、俺以外の人はみんな誰かと話をしてる。
できるだけ目立たないように端っこの方でスマホをいじって、司会っぽい人の話を聞いていた。
この後、あいつが踊るんだよな?
イマイチ進行を把握してないから、時間かかりそうなら帰ろうと思っていたら、カメラを構えてスタンばってる隣の女性にじっと見られた。
黙って会釈したら「高校生?どこの子?」って、子供じゃないのに。
「あ、この辺じゃなくて、今日友達が神楽踊るって言ってたから…」
「祥爾?夏生くん?」
「祥爾くんです」
呼び捨てにするってことは母親か?そう言えば、すっきりと整った顔に面影がある。祥爾の勝ち気な瞳に柔らかさが加わったらこんな感じかもしれない。
パチパチとまばらな拍手が聞こえた。舞が始まるらしい。
祥爾の母親らしき人は小声で話しかけてきた。
「もしかして同じ高校?」
「はい、一つ上で……」
団扇で扇ぐ音だけを残した舞台から、小さい笛の音が響き出した。
先に歩いてきたのは祥爾だった。伸ばしていた髪を後ろに流し、付け毛をつけている。巫女の恰好を嫌がっていたけど、内側からエネルギーが溢れる細い身体に白っぽい衣装が似合っている。
神前に捧げられた生贄の少年みたいだ、ってバカみたいな事考えた。
襟足からは緊張感を漂わせた細い首がすっと伸びていて、いつも後ろ向きでシャツを脱ぐ時の祥爾の背中を思い出して胸がギュッと締め付けられた。
舞の事なんかわからないけれど、周りの誰もが言葉を飲みこんでじっと見つめている。なのに舞台の二人は何も見ていない。
二人の共有する空気が共鳴してるみたいだった。
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