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(草間 祥爾)
舞は、完璧すぎるくらいだったらしい。
労いに来てくれた自治会の人に散々褒められて、この後の宴会にも来るようにと念押しされた。おじさんたちが去った後に母親が満面の笑みで飛び込んできた。
「祥爾!あんた凄かった、なんか乗り移ってたよ?感動したわ!夏生くんありがとうね」
「俺じゃなくて、祥爾が練習をがんばったから。にしても踊る前はあんなに緊張してたのに舞台に出た途端凄かったな」
座布団を並べて座っていた俺の肩を抱き寄せて頭をぐしゃぐしゃと撫でる夏生の匂いに、ようやく本番が終わったことを実感した。
べったり凭れかかりながら、夏生も自分と同じように高揚してるんだと思うと嬉しかった。
「夏生に教えてもらったお陰だ」
上がったテンションで素直に言ったのに、あっさりと
「珍しく謙虚なこというな、マジで巫女にでもなったんか?」
と返された。
肩に預けた頭を動かして夏生を見ると「明日は雪降るから仕事が休みになるな」って笑ってる。
「相変わらず仲がいいわね、あんたたち」
何も知らない母さんは平気でそんな事を言う。
その時開け放しになった入口から誰かが顔を覗かせた。
予想もしなかった相手だった。表情が険しくなるのが自分でも分かる。
センパイが何でここに?
祭の話はしたけれど見に来てなんて言ってないし、そもそも家だって遠いはずだ。
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