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話に夢中だった母親がようやく俺の視線に気が付いた。
「そうそう、見たことない子がいてさ、聞いたらあんたの先輩だって?遠藤くん、どうぞ入って。ゆっくりしていって」
「ありがとうございます」
忙しなく話した後、宴会の準備のため部屋を出る母親に会釈したセンパイは、部屋を突っ切って、じゃれあったままの俺達の前に座った。
それから表情を変えずに夏生を見てから、俺に困ったような笑顔を向けた。
あからさまだった。
「祥爾、すげぇな……お祭りで踊るってこんなんだったのか」
分かりやすく無視し続けるセンパイに、夏生が俺の肩から手を離した。
密着していた身体が離れた。ひやっとしたのは、今になってきいてきたエアコンのせいなのか、黙ったままの夏生のせいなのか。顔は見ていないけれど、隣でむっとしているのが伝わってくる。
本番の高揚から一転して、予想もしてなかった状況に混乱する俺の顔を先輩が覗きこむ。
学校以外で会いたくなかった。夏生に会わせたくなかった。
ギリギリ聞こえる位の溜息をついて、いつもみたいな笑顔で視線を上げた。
うまく笑えてるのか分からないけれど、こっちだって必死だ。
「隣の市からわざわざ見に来たの?」
俺の嫌味に唇が歪む。
「近くで用があったついでだよ」
嘘だ。
「一緒に踊ったのは友達?」
あんたには関係ない。
でも隣に座っている夏生が、挨拶もしてこないセンパイに丁寧に答えた。
「山下です。祥爾とは小中一緒で幼馴染で、今でも仲いい友達だよ」
「へぇ、俺は遠藤です。祥爾とは仲良くやらせてもらってます」
その言い方に頭に血が上った。
夏生を怒らせようとしているみたいな一言一言が、いちいち引っかかった。
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