夜が見ている

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(センパイ) 狭くて急な公民館の階段を下りて行った。あの部屋で二人で着替えてるんだ。無意味な八つ当たりだって分かってるけど、それも腹立たしかった。 部屋を出る時のあの男の顔。余裕ぶった顔で牽制してきやがって。 あれが好きなやつなんだ、って思うと頭が煮えてその場で祥爾の腕を引っ張って目の前でキスしてやりたかった。 年上で幼馴染。あいつの話をするときだけは、俺と目を合わせなかった。すげー嬉しそうな顔するのを隠しきれてなかったけど。 セフレかそれ以下としか思われてないのは分かっていたけど、諦めきれなくて、せめて現状維持しようと思って努力してきたんだ。よりにもよってあんなノンケの男に取られたくない。 今はまだやるだけの男と思われてもいい。 夏休みが始まったらどっかいって、俺んちに籠らずに話ししてふつうにデートして……、そんな事を考えながら外に出たら、祥爾の母親に声を掛けられた。 「おーい、遠藤くん!もう帰るの?」 はぁ、と返事をすると畳みかけるように促される。 「ねぇ、あの子たちもすぐ来るから一緒に食べてきなさいよ」 「あ、ありがとうございます。でもやめときます」 「あら、遠慮しちゃう?まあ、知らないおじさんおばさんばかりだもんね。ちょっと待ってて、詰めてきてあげるからお家へのお土産に持って行ってよ」 さっきを同じ、一方的に喋ってそのまま宴会場の方に戻っていった。顔は似てるけど、性格は祥爾と大違いだ。 赤飯やおはぎなんかを詰めて持ってきた祥爾の母親とそのまま暫く立ち話をして、車で送ろうか、という提案を断って歩き出した。さっきいた部屋はカーテンが引いてないから電気が煌々とついている。 人影が見えた。祥爾より背が高い、山下さんだ。あ、と思った瞬間窓から何かが投げられた。 暗闇の中を弧を描く黒い塊。 妙に気になって見に行った自分の好奇心を呪った。
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