夢の様なひとときを

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「時間になったらまたここに戻るっす!」 「ありがとう!」  俺達は受付の騎士に案内されて城の中へと進む。今宵のダンスホールとなる大広間には既に大勢の若い娘と付き添いの母親達で埋まっていた。  その中央がまるで結界の様にぽっかりと開けている。そこに今日の主催者がいた。 「あの御方が王子様……」  いやはや、何つーか『The☆王子様』って感じのイケメンだ。ちょっと頼りない感じもしなくはねぇが、ま、優しそうな甘いマスクだな。笑顔にキラキラのエフェクトがかかって見える。  しっかし、ここにいる女達の全員が玉の輿だか腰の玉だかを狙ってる訳か。世の独身男性から恨まれるぞ、王子。  女達は誰が王子と踊るかを狙って牽制しあってるのか。そんで逆に誰も踏み出せねぇ、と。  お、あの女達もいやがる。 「あ……」  おっと。何、隠れてんだよ。それじゃ意味が無ぇだろ。 『あの花台だな』 『あいよ、アンタ』  本人に悟られない様に慎重に進路を変えてやる。視線があの三人に向いてるこの娘は周りを見てねぇ。まんまと肩が花台にぶつかった。 「きゃ……」  驚いた拍子に漏れた声は小さかったが、この張り詰めた沈黙の中では響く。 「大丈夫?」 「あ、は……い……?!」  花台を押さえる手に、もう一つの手が重なる。驚いて振り向いた娘が動きを止めた。  最初は重ねられた手に。そして、その相手に。そりゃそうだろうな。至近距離にキラキラの王子様スマイルがありゃ、そりゃ固まるわ。  けど、驚いて固まったのは娘だけじゃなかった。王子様も。それどころか周りの女達までもが固まっちまってる。まるで時間が止まった様に。  娘の顔が羞恥に染まり、俯く様に視線が逸らされる。そこでようやく王子様のフリーズも解けた。 「怪我は無い?」 「は、はい……不調法で申し訳……」 「いや、謝るのはこちらの方だ。人が集まる場にこんな不安定な花台を置くべきではなかった」  す、と片手が上がると、近くにいた給仕係がすぐに寄ってきた。
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