-2 狂気

3/7
20人が本棚に入れています
本棚に追加
/134ページ
「この歳になれば分かる。人柱など、他人の生命を犠牲にして生きる事に意味など無い。大罪を犯したワシは、やはり死をもって償うしかないのだ」  男性はそう言うと、ゆっくりと目を閉じてその場に座る。その直後、背後に立っていた男性の振り下ろした斧が、その細い首を切り落とした。  周囲に鮮血が飛び散り、真っ赤な雨が降る。  溢れ出る血は断頭台と化した敷石を再び真っ赤に染め、周囲の地面に染み込み地獄に変えていく。  これだけの凶行を目の当たりにすれば、誰もが懺悔の念を抱き、自分の罪に気付くはずだ。しかし次の瞬間、私は信じられない光景を目にする。  周囲を取り囲んでいた集落の人々が、各々が手にしていた鉈や鎌で、首から上が無くなった身体を切り刻み始めたのだ。  口々に「お前達のせいで、ワシらまで危険に晒されているんだ」「お前達さえいなくなれば、我々は助かるんだ」と、まるで呪いの様に呟きながら。 1人の老人を取り囲み、死に物狂いで刃物を振り下ろす住民達は、その行為をようやく10分余り後に止めた。  そして、細切れの肉片と化した老人を背に、次の目標を見据える。  最早その目には、僅かな理性の欠片すらも見られなかった。  恐怖の余り放心状態になり、焦点が合わない目で真っ黒な夜空を見上げる女子高生。その肩にポンと手を置き、後ろ手に縛られた老婆が立ち上がる。 「次の順番はワタシじゃ。子供がいない随身家は、ワタシが最後の1人…」  老婆は背後から蹴られ、手をつく事すら出来ず、皆が待つ円の真ん中に顔面から突っ込んだ。
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!