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「鐘崎遼二です。半年前に事故で両親を亡くして、生まれ故郷の日本に帰ってくることになりました。と言っても別に日本(ここ)に親戚があるってわけでもねえんで、一人暮らしですが……どうぞよろしく」  軽く会釈をし、その瞬間に今度はシラけた空気がザワつきへと変貌する。生徒らは無論のこと、担任までもが驚いたように目を丸くしながら、俺の顔を凝視していた。  少々焦ったようにして、『そんなことは言う必要ないんじゃないか?』とでも言いたげなのがよく分かる。 「で、では……キミの席はこの列の一番後ろだから」  担任に指示されるままに、その席へと向かって歩き出せば、それこそ腫れ物に触るような調子で、教室中の視線が一気にこちらへと飛んできたのに、舌打ちしたいのを抑えて平静を装った。  なんでそんなヤツがこの学園に入って来られたんだという蔑みまじりの感情と、いったいこいつは何者なんだという興味の感情が入り混じって、まったくもって心地のいいものではない。品定めの野次馬根性が、瞬時に阻害と敵視のような雰囲気にとって代わるのを感じていた。  此処はいわゆる進学校という処らしい。家柄よろしく、学園に通う者の殆どが何処ぞの御曹司というべき裕福な家庭に育った者たちの溜まり場だそうだ。  だからこそだ。自ら化けの皮を剥いでやった方が、後々面倒事が回避できていい、俺はそう思ってわざと天涯孤独の身であることを暴露した。
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