気品のある野良猫

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気品のある野良猫

からんからん。 古びた扉の鐘がなる。 まるで我が物顔で入ってきてカウンターの一番端に腰掛けるすらりとした長髪の美青年。 長い足を組み、髪をひとくくりにした彼は微笑みながら、いつもの。とだけ言う。 「かしこまりました」 彼はうちの常連客で…ああ、申し遅れました。私はここのマスターです。 どうぞ気軽にマスターとお呼びください。 それで、ええ、彼は常連客のタマさん。 猫のような人で、毎日同じ時間にここへ来てはいつもこの端の席へ座る。 かと思えばぱたりと来なくなったりと、一体なんの仕事をしているのかもわからない不思議な方。 まぁ、かなり気分屋なことだけはたしかだ。 タマさんはいつもベルリナのチェリーテロワールのブラックを頼む。 少々変わり種で、フルーティな香りがワインにも似た味わい。 うちでこれを飲むのはタマさんくらいなものだ。 「お待たせ致しました」 いつもと同じように淹れたてを差し出すと、タマさんはまたいつもと同じように嬉しそうに笑う。 あまり変わらない表情を崩して嬉しそうにしているのを見ると、彼のためにこの豆を仕入れている甲斐があるというものだよ。     
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