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「じゃあ、ハンバーグあるかな?」
私は母親に聞いた。
当時の私にとってはレストランといえばファミレスだった。そして、ファミレスで食べられるものといえば、ハンバーグか、スパゲッティ。とりわけ、ハンバーグが好きだったものだから、あのおしゃれなレストランのハンバーグならきっと世界で一番おいしいのだろうと思ったのだ。
「まさか。フランス料理のお店よ。そんなものあるわけないでしょ?」
私の質問に母親はあきれたようにそう答えた。
「それにとっても高いんだから、あんなところに入れるわけがないでしょう。」
さらにそう付け加えた。
小さなころは「高いから無理」というのが母親の断る時の常套句だった。これを言われると、買ってくれることはほぼないし、その後に駄々をこねると母親が怒るのが常であったので、次第にこの言葉が出るとそれ以上ねだるのはあきらめるようになっていた。だが、この時は、まだそのことをわかっていなかったので、しばらくごねていた。しかし、結局、母は頑として頷いてくれることがなかった。
その内、レストランのことなど忘れてしまった。建物も見慣れてしまえばただの風景の一部へと変わってしまっていた。
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