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発車のベルが鳴る直前に、足を引きずって杖をついた老人が乗り込んで来た。ゆ っくりと優先席の前に立ったが、優先席に座った”おじさん“達は、下向いたまま立ち上がる素振りを見せない。
彼女の隣を離れるのは惜しかったけど、(仕方ないな)と思って立ち上がろうとしたら、先に隣の彼女が立ち上がった。
「こちらに座ってください」彼女がその老人に声を掛けた。
老人は振り返ると、ありがとうと言って彼女が開けてくれた席に腰を降ろした。
彼女は、僕の前に立って。
「私の勝ちね」
と満面の笑顔で言った。
あの笑顔が僕に向けられ、心臓が大きく高鳴るのを感じた。
暫く、僕の目は彼女にクギ付けになっていたが、ハット思って彼女に聞いた。
「勝ちって、競争してたんだっけ?」
彼女が微笑む。
「あなたも立ち上がろうとしたでしょう? でも、私が先に席を譲ったから、私の勝ちって思った」
僕は、頭に疑問符が3つくらい付いたけど、まあいいかと思って、彼女に言った。
「分かった、今回は君の勝ちだね。でも競争でやる事じゃ無いよね? 困っている人を助けることは、当たり前の事だと思うから」
彼女は、ふーんと言って、また満面の笑顔を見せた。
「でも、人助けをするって嬉しいじゃない。その分、自分が幸せになれる様な気がするの。だから、今回、あなたの幸せを貰っちゃったって事。ありがとう」
僕は、あっけに取られていた・・
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