第3章 ジェイムズ登場

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 僕はといえば、JTが主催する「ライブ・アンダー・ザ・スカイ」というジャズ・フュージョンの野外フェスをテレビで見て感動し、まだ若く絶頂期だったスターたち、泣きのサックス、デヴィッド・サンボーン、ギターのハイラム・ブロックのグルーヴ、ベースのマーカス・ミラーなど錚錚(そうそう)たる面々に打ちのめされてしまった。とくにベースのマーカス・ミラーが弾く「スラップ」(当時はチョッパーといったっけ笑)は真似をしないわけにはいかなかった。弦を上からは親指で叩き、下からは他の指で弦を引っ張るようにはじく。今までのベースと言えばコードの低音を支えるという役割だったわけだが、このスラップによってベースはドラムのようなリズムを叩きだす楽器へと概念が変わってしまうのだ。ベースの神様ジャコ・パストリアスのTeen townをスラップでやるのだから狂っているとしか思えない。僕はいろんなビデオを見ては練習を重ね、少しず つベースを主としたインストゥルメンタル(ボーカルなしで楽器にフォーカスした曲)を作り出していった。  太刀川瑠一は、サンタナやピンクフロイドなどプログレな領域にのめり込んでいた。僕の曲に何とも珍妙なスケール(コードに対しての音の並び)で超絶なテクニックをアナログのMTR(多重音楽テープ録音機)を使ってミックスダウンで被せてきたり、僕と二人で適当にコードを決めて即興で曲を弾きながらソロの掛け合いをしたりして楽しんでいた。  そんな僕ら3人は、ふたたび僕の家の狭い4畳半に集まってはMTRで、それぞれが好きなように曲を作っていた。  準は、ギターで、片思いや自由や虚無感を求めた英語の曲を作り、僕らが楽器を入れる。  瑠一は、難解なスケールとエフェクターを駆使した曲を作り、僕らがマスタリングする。  僕は、さっきのスラップを多用してロックやファンクに近い曲を作り、準に歌ってもらい、瑠一に弾いてもらう。  3人がまったく笑ってしまうほどバラバラな方向性ながら、不思議と化学変化を起こして、だんだんと独特なオリジナリティを生み出して、今までにない世界が見え始めたんだ。     
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