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何年経っても、忘れていないのか。
忘れられないのか。
なにひとつ。
胸に鋭い痛みが走る。
あの時、自分たちはまだ小学生だった。
代々続く広大な屋敷に住み、誰もが知っている名士の子にもかかわらず、供もつけず徒歩で地元の公立の小学校に通う自分たちは、あきらかに異分子だったと思う。
幼い頃は何も考えずに一緒に戯れても、年を経るごとに同級生たちはどう接するべきかという戸惑いが増して自然と距離が空いていく。
幼少期は身体が弱かったらしい兄の俊一は小学校をかろうじて地元の私立、中学校からは東京の名門校へ編入していたし、公の場に何かと伴われ、些細なことにも祝いの場を設けられたことと比べると、どうしても冷遇されているように周囲の目に映った。
俊一以外に跡取りは存在しない。
父は周囲に内外にそう知らしめたかったのだろう。
確かに、効果はあった。
父親に軽んじられている、むしろ嫌われていると子供たちに解釈された自分たちは、時々群れから弾かれ、嘲笑すらされることもあった。
子供は、時として恐ろしく残酷だ。
いらない子供、捨て子、鬼っ子とはやし立てられたこともある。
耐えられなくなった憲二が自分の手を引いて学校を飛び出し、庭のどこかで過ごすことが増えた。
繁華街に出ることはない。
どこにいても人目があるからだ。
そして父の不興を買うのを畏れた学校側は、まっすぐ自宅へ戻る自分たちの行動を不問に付し、留守を預かる家人たちも子供たちの早すぎる帰宅をうすうす気付いていながら、騒ぎ立てるべきでないと判断したのか、誰にも咎められることなくそれはしばらく続いた。
だから、俊一と峰岸は知らなかった。
最奧の東屋が弟たちの避難場所の一つだと。
ひとひら、ふたひら。
ふわふわと、白い花びらが宙を舞う。
風に吹かれて飛んでくる桜の花びらに誘われて、二人で競って老木を目指した。
いりくんだ小道を駆け抜けて先に辿り着いたのは、運動能力では勝っていた自分だった。
さすがに呼吸がきつく、太い木の幹に両手をついて、肩で息をしているところに追いついた憲二が背後から飛びつき、二人で笑い合おうとしたその時、その先にある東屋の異変に気が付いた。
まずは、声、だった。
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