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高く、低く、時には唸るような、人の、声。
それは一人ではなく、絡み合って編み出される歌のようで。
瞬時に、自分は何が起きているか理解した。
なぜなら、そのような場に居合わせてしまったのは初めてではなかったからだ。
でも。
憲二は、初めてで。
そして、知らなかった。
俊一と、峰岸覚が、身体を繋ぐ仲だということを。
「あっ、ああ・・・っ」
「・・・っく、俊・・・っ」
桜が咲いているとは言え、まだ少し肌寒さの残る季節というのに、俊一はシャツしか身にまとっていなかった。
少し洋風の趣のある石造りの東屋の、同じく石で造られたテーブルに縋って、俊一がむき出しの尻を掲げ、その中心に峰岸がスーツの前をくつろげただけの格好で腰を打ち付けていた。
膝を震わせて身体を支えられないのを見て取った峰岸が、いったん身体を離し、床にくずおれた俊一を大切そうに抱き上げてそのテーブルに座らせ、口づけを施す。
両腕をその肩に回した俊一が何事か囁きながら、ゆっくりと足を開いていった。
甘く口づけを交わし合いながら、俊一が長い足を広げ、身体をくねらせる。
そして、それが合図のように峰岸が白い足を抱え上げ、再び俊一を貫いた。
「あっ、ああーっ」
首をそらして、歓喜の声を、上げる。
快楽のまっただ中にいる二人は、すぐ近くで目を見開いたまま固まる憲二と自分に気が付かず、長い時間を掛けて何度も愛し合った。
チャコールグレーのスーツを着込んだ峰岸の身体に、俊一の長い手足がきつく絡まり、それが昼のやわやわとした光を帯びて白く光る。
貫いて、
貫かれて。
二人は悦びの声を上げる。
まさしくそれは、祖父の遺した書斎で見た、歓喜仏のようだった。
「そういやあれを、俺が犬の交尾みたいで恥ずかしいって言ったら、お前、チベットだかヒンドゥーだかの宗教画みたいに神聖だって大まじめに返したよな」
幹に背を預けて、憲二はあの時と変わらない東屋を見つめる。
「そこは、忘れて欲しかったな・・・」
「なんで?」
「なんででも・・・」
多分、あれから一度も、彼はこの桜の木より先に足を踏み出したことがない。
どれだけ時が経っても、風化することのない記憶。
この木を恋しがってやってくるくせに、まるで見えない境界線があるかのように東屋へ続く石畳に足を乗せようとしない。
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