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 「座敷童子」は,日本でもっとも有名な妖怪のひとつと言っても過言ではない。  各地でさまざまな話が伝承されているが,座敷童子がいる家は栄え,去った家は衰退するというのがほぼ共通である。また,世間一般には,「福の神」のような扱いを受け,有難がられる存在でもある。  現代でも座敷童子の出る宿が何年も先まで予約が埋まっていたり,座敷童子を呼び込もうと,あの手この手を使って観光の目玉にしようとしている自治体もある。  しかし,それは相手が非力な子供の妖怪で,害を及ぼさないと勝手に思い込んでいるからであって,本当の座敷童子は他の妖怪となんら変わらない。むしろ危険な存在ですらある。  そもそも座敷童子とは,口減らしのために間引かれ殺された子供や,十分な食べ物がなく餓死した子供たちの怨霊であり,恨み辛みはあっても「福の神」の要素などどこにもない。  貧しい家に産まれ,満足に食事も与えられないまま殺され,墓にも入れてもらえず,ゴミのように草むらに埋められた子供が生きている人間に福をもたらす理由がどこにあろうか。  そんな「座敷童子」と呼ばれるモノたちは,現代でも存在する。  いまでこそDVや児童虐待という言葉が普及しているが,今も昔も理不尽な暴力の犠牲になるのは常に非力な女子供である。  「座敷童子」なるモノたちは戸籍もなければ出生届けも出されることなく,誰にも望まれずに人知れず堕胎させられたか,産まれると同時に処分されたモノであり,その存在自体を世間に知られることはないが,産まれること,生きることに執着したモノはやがて人の形をいびつに保ちつつ,闇の中でゆっくりと成長していった。  唯一座敷童子が認識しているのが,記憶の奥底にある母親が心のなかで呼びかけてくれた自身の名前や呼び名だけであった。
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